【インタビュー】2022年11月19日(土)坂田恭子ピアノリサイタル~音楽に内包されるドラマ~

【インタビュー】2022年11月19日(土)坂田恭子ピアノリサイタル~音楽に内包されるドラマ~

2022年11月19日(土)に東京・日暮里サニーホールコンサートサロンで坂田恭子ピアノリサイタル~音楽に内包されるドラマ~を開催いたします。リサイタルに向けて坂田恭子さんにインタビューいたしましたので、ご覧ください。

インタビュー

今回のリサイタルに向けての抱負を教えてください。

今回のリサイタルの副題は《音楽に内包されるドラマ》。いずれも非常にドラマティックな作品ばかりです。どの作品にも、作曲家が作品に付託したであろう濃密なドラマのようなものが含まれています。
もちろん、作曲家がどのようなドラマを伝えようとしていたのか、今となってはその真の表現意図を完全に把握するすべはありません。ですが、本来一期一会であるはずの音楽演奏、これをあえて楽譜という記録にとどめようとした作曲家の「表現への強い思い」を私なりにしっかり受け止め、味わい、そして私自身のうちにある「伝えたいもの」をも「表現」していきたいと思います。

演奏する曲の聴き所などを教えてください。

音楽を味わうポイントはいろいろあろうかと思いますが、例えばそれぞれの曲の「調性」に着目してみると興味深いかもしれません。今回、バロック~ウィーン古典派の作品を時代順に並べて演奏しますが、それぞれの作曲家の「調性」に対する独自の感覚を味わってみるのも一興だと思います。
最初の2曲は、ハ短調 c-moll の作品です。ハ短調といえば、ベートーヴェンの有名な交響曲第5番にもみられるように、かなりシリアスで苦悩に満ちた重苦しいストレス感のある調性です。まさに、運命との葛藤、そういうものを象徴する調性であるといえるでしょう。
ただし、同じハ短調 c-moll の作品とはいえ、バッハとモーツァルトでは、その取扱い方には相当な差があります。バッハの平均律の場合、近親調への転調を基本としているのに対し、モーツァルトの幻想曲では、開始と終結こそハ短調 c-moll ではあるものの、曲中では想定外の転調が続き、これがオペラのような場面転換効果を高めています。
時代が下ったシューベルトになると、さらに絶妙にして斬新な転調技法が駆使されるようになります。調性については、シューベルトは強いこだわりを持っていたようで、友人に向けて「調などどうでもよいと思う者は、しょせん音楽的ではないのだ」(ドイッチュ編『シューベルト ― 友人たちの回想』石井不二雄 訳)と述懐していたと伝えられています。
シューベルトのソナタは、イ長調のもつ明朗さ、快活さ、平安といった気分が余すところなく表現されていますが、圧巻なのは、嬰ヘ短調 fis-moll の第二楽章です。シューベルト研究の第一人者である堀朋平氏は、著書『<フランツ・ シューベルト>の誕生』において、嬰ヘ短調を「破局の嬰ヘ短調」であると称しており、「最大の力で猛威ふるう」作品として、この曲の第二楽章を挙げ、アルフレート・ブレンデルの「三部作における憂鬱な諸力を最大限に凝集」したものという言葉を紹介しています。
また、シューベルトは、「柔らかな光に見え隠れする憧憬」と「手を伸ばしても捉まえられない儚さ」を思わせる変ト長調 Ges-dur や、「最も暗い憂鬱さ」 と「心の傷」を思わせる嬰ハ短調 cis-moll を、曲中の自在な転調を通して効果的に使っています。

あなたにとって音楽とは何ですか。

振動する物体から派生する空気振動(疎密波)が、感覚受容器である聴覚器を通じて電気信号に変換されて脳内に伝わったもの、これが「音」の正体です。そ んな物理的で生理的な現象ではあるのですが、我々人間は、「音」のまとまりである「音楽」に接したとき、さまざまな情動が喚起され、そこに何らかの意味を見出すのですから、本当に不思議なことであると言わざるを得ません。
かつ、「音楽」という場面において、演奏をする者と演奏に接する者が同じ時空を共にするとき、両者の間には、言葉では語りつくせないノンバーバルなコミュニケーションが交わされます。これこそ、音楽の不思議さであり、醍醐味であると思います。
私にとって「音楽」とは、こうした不思議さに彩られた「汲めども尽きぬ神秘の泉」のような存在です。

演奏会情報

2022年11月19日(土)坂田恭子ピアノリサイタル~音楽に内包されるドラマ~
会場:東京・日暮里サニーホールコンサートサロン
時間:15:30開演(15:00開場)
料金: 全席自由 2,500円

出演者

坂田恭子
Kyoko Sakata,ピアノ

京都市出身。東京大学卒業。ピアノおよび伴奏法を田隅靖子、マインハルト・プリンツ、今井顕、室内楽をルッツ・レスコヴィッツ、大和田葉子、石井志都子の諸氏に学ぶ。ベリー・スナイダー、シュテファン・アーノルド、シュテファン・メラー諸氏のマスタークラス等を受講。ハンブルク国際音楽講習会にてピアノおよび伴奏法クラスを修了。第3回日本奏楽コンクールにおいて審査員特別賞、Carles & Sofia 国際ピアノコンペティションのプロフェッショナル部門(2021)において金賞およびベストモーツァルト賞を受賞。

曲目

J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第2番 前奏曲とフーガ BWV871 ハ短調

W.A.モーツァルト:幻想曲 KV475 ハ短調

F.シューベルト:ピアノ・ソナタ 第20番 D959 イ長調