【インタビュー】2022年12月10日(土)篠村友輝哉ピアノリサイタル

【インタビュー】2022年12月10日(土)篠村友輝哉ピアノリサイタル

2022年12月10日(土)に東京・日暮里サニーホールコンサートサロンで篠村友輝哉ピアノリサイタルを開催いたします。リサイタルに向けて篠村友輝哉さんにインタビューいたしましたので、ご覧ください。

インタビュー

今回のリサイタルに向けての抱負を教えてください。

どんな演奏の機会でも、聴き手と音楽をほんの一瞬でも繋ぎ得る演奏を目指すことに変わりはないのですが、今回は私にとって、主にコロナ禍のために2020年の2月以降中断していた生の演奏会を再開する、節目の機会となります。先立って、9月にあるイベントにゲストとして参加し、2年と7か月ぶりに生演奏の舞台に立ったのですが、生の音楽をお届けする喜びと痛みに久しぶりに満たされました。この12月の演奏会で、その感覚をさらに深く実感できればと怖れを抱きつつ楽しみにしています。
そんな機会ですし、また、社会全体が疲弊している昨今ですから、何か希望的な曲目を並べるべきだったのかもしれませんが、光と闇、特に夜のそれに重心を置いたテーマの、非常に暗いプログラムになってしまいました(笑)。光と闇のあいだを、闇の持つ圧倒的な引力に完全に呑まれそうになりながらも、光を見失わずに行きつ戻りつするような世界に聴衆の方々と入っていければと思っています。
また、生演奏から遠ざかっていたこの間(かん)、弾くことを離れて音楽や芸術、様々な人の演奏について思考し、書いたり話したりする時間が増えました。それによって、自分自身も演奏者として作品を手掛けるときのアプローチが変わってきたような気がしています。それが聴く人にどの程度伝わるレベルのことなのかはわかりませんが…。

演奏する曲の聴き所などを教えてください。

この夜の光と闇の世界を描くにあたって、その要素がそれぞれの作品に通底していることだけではなく、プログラム全体の流れを重視しました。この5曲全体で大きなひとつの作品となるようなイメージです。
冒頭のシューベルトの即興曲は、第3音の上下などによって、全曲に亘って長調と短調を行きつ戻りつしています。最後にはハ長調に収斂しますが、そこでは長調と短調が、光と闇が融け合ったような世界に至っているように感じられます。ほかの4作に比べると、夜をとりわけ感じさせるわけではありませんが、今回のプログラムの世界に導くような位置づけです。次のショパンのノクターン作品48の第1は、前のシューベルトの即興曲と同じハ短調であるという繋がりがありますが、それのみならず、音楽が「歩行」を思わせるという点でも共通しています。もちろん、その歩み方はまったく異なりますが。この作品48の2つのノクターンは、ハ短調と嬰ヘ短調という、最も遠い調が組み合わされています。非常に繊細な和声感覚を持っていたショパンですから、このことに意識的でなかったはずがないのではと思いますが、その最も遠いはずのもの同士がひとつに結ばれているということも、今回のテーマに繋がります。作品48の第2の嬰ヘ音の哀しみと妖気を感じる響きが夜を深め、スクリャービンの「黒ミサ」の神秘的で危険な響きを導きます。言うまでもなく今回のクライマックス、最も深い闇はこの作品にあります。痙攣しながら増幅する破壊的な闇の混沌にすべてが呑み込まれたところで、その静寂のなかにドビュッシーの「月の光」が、一筋の光が射してくる。しかしそれは、あくまでも夜明けの光ではなく、夜の内にあります。

あなたにとって音楽とは何ですか。

いろいろな答え方ができる、難しい質問ですが…。私は、音楽以外にも文学や映画などを中心に、表現行為そのものに関心があるのですが、そのなかでも音楽は私にとって、生きる上で一番大切な何かを理屈抜きに実感させてくれる、思い出させてくれるもののように思っています。だからこそ、苦しくてもどうにか続けているのだと思います。

演奏会情報

2022年12月10日(土)篠村友輝哉ピアノリサイタル
会場:東京・日暮里サニーホールコンサートサロン
時間:17:30開演(17:00開場)
料金: 全席自由 2,500円

出演者

篠村 友輝哉
Yukiya Shinomura,ピアノ

桐朋学園大学卒業、同大学大学院音楽研究科修士課程修了。ピアノを寿明義和、岡本美智子、田部京子の各氏に、室内楽を川村文雄氏に師事。在学中、桐朋学園表参道サロンコンサートシリーズ、大学ピアノ専攻卒業演奏会、大学院Fresh Concertなどの演奏会に多数出演。桐朋ピアノコンペティション第3位、東京ピアノコンクール優秀伴奏者賞、かさま音楽賞など受賞。文筆活動も行い、幅広いジャンルの音楽/演奏評論、音楽エッセイを中心に執筆。東京国際芸術協会会報「Tiaa Style」では2019年の一年間と2021年下半期の半年間、エッセイ・評論の連載を担当、好評を博した。エッセイや講座、メディアでは、文学、映画、社会問題などにも積極的に言及している。修士論文はシューベルト。
(公式サイト) https://yukiya-shinomura.amebaownd.com/

曲目

シューベルト:4つの即興曲 D899 作品90より 第1曲 ハ短調

ショパン:2つのノクターン 作品48 第1曲 ハ短調、第2曲 嬰ヘ短調

スクリャービン:ピアノ・ソナタ 第9番 作品68「黒ミサ」

ドビュッシー:ベルガマスク組曲より 第3曲「月の光」