【エッセイ】ラ・フォリアの呪縛――椿太陽(ヴァイオリン)

【エッセイ】ラ・フォリアの呪縛――椿太陽(ヴァイオリン)

2019年8月12日(月祝)14:00に東京・日暮里サニーホールコンサートサロンにて「小泉至代&椿太陽ヴァイオリンデュオリサイタル2nd Stage~廻る~」を開催いたします。演奏会に向けて椿太陽さんにエッセイをご執筆いただきましたので、ご覧ください。


 あなたにとってのトラウマは何だろう?
 人間誰しも生きていれば失敗や苦い経験をしたことがあるはずだ。

 私が10歳のとき、ヴァイオリンの発表会でコレッリ作曲のラ・フォリアを弾くことになった。当時の先生がこの曲を選んでくれた訳だが、正直私は乗り気ではなかった。
 ラ・フォリアには色々な版が複数存在するが、このとき先生が渡してくれた楽譜は、レオナール版というとても難しい版だった。
 くじけそうになりながらも一生懸命に練習したのを覚えている。特に苦労したのはカデンツァ。カデンツァとは技巧を披露する無伴奏の部分であり高度なテクニックを要する。
 このレオナール版には曲の終盤に長大なカデンツァが書かれているのだ。技術的に難しいのは勿論だが、ただ楽譜の音符を勢いで弾き飛ばせるようなものではなく音楽的に仕上げることがなかなかできなかった。
 巨匠達のCDを何十回、何百回と聴いて、いくら練習してもそれっぽく弾けない。しまいにもうこの曲を弾くのが嫌になり練習量も減ってしまった時期があった。
 でも発表会の日は刻一刻と近づいてくる。嫌々ながらも練習し、なんとか問題のカデンツァも仕上がった。
 そして本番に事件は起きる。「…!?」難しくも何ともない箇所で暗譜が飛んだ。反射的にすぐ修正したが、後から録音を聴くと時間にして0.5秒程音楽が止まっていた。二歳からヴァイオリンをやって、これまでにたくさん人前で弾いてきたがこんな経験は初めてだった。どんなに一瞬だろうとステージで音楽を止めてしまうことは決して許されない。
 先生や周りの人は、素晴らしい演奏だったと褒めてくれたが、私は悔しくて悔しくて仕方なかった。
何故こんなことが起きたのか?理由は簡単。練習不足である。
 これを機に気持ちを入れ替え、どんな曲でも、どんなステージでも真剣に音楽と向き合うことを誓った。
 いまだに薄れることのない強烈なトラウマである。

 あれから20年経ち、この夏久しぶりにそのラ・フォリアを弾く。
 今回は珍しいヴァイオリン二重奏版である。
 ピアノの伴奏も無い、ヴァイオリン2本だけのリサイタル。
 ヴァイオリンとヴァイオリンから生まれる美しいハーモニーはまさに天上の響きである。色々な版で聞き慣れたラ・フォリアもヴァイオリン二重奏版だとひときわ輝いて聴こえる。
 このコンサートでは、ルクレールやモーツァルトの美しい古典から、皆さんご存知の「猫ふんじゃった」まで、広いレパートリーでお届けする。
 ヴァイオリンの魅力満載のコンサート。是非ご来場を!


演奏会情報

2019年8月12日(月祝)小泉至代&椿太陽ヴァイオリンデュオリサイタル2nd Stage~廻る~
会場: 東京・日暮里サニーホールコンサートサロン
時間: 14:00開演(13:30開場)
料金: 全席自由 一般 3,000円 小学生以下(未就学児含) 2,000円

出演者

小泉至代(ヴァイオリン)、椿太陽(ヴァイオリン)

曲目

ルクレール:6つのソナタより Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ

モーツァルト:鏡

バッハ:ガボット

イザイ:妄執

越後獅子

コレッリ:ラ・フォリア