【優秀指導者賞受賞者インタビュー】西谷国登先生

【優秀指導者賞受賞者インタビュー】西谷国登先生

2025年春に開催された「第48回全日本ジュニアクラシック音楽コンクール」では、119名の先生が優秀指導者賞を受賞しました。

今回は 生徒様の気持ちに寄り添いながら、一人ひとりの音の気づき”を大切に育てていらっしゃる温かく、芯のある指導者である西谷先生にお話しを伺いました。

インタビュー

この度は第48回全日本ジュニアクラシック音楽コンクール優秀指導者賞受賞おめでとうございます。弊会コンクールに関して先生の感想やご意見、レッスンされている際に心がけていること等をお聞かせいただければ幸いです。

早速ですが、ご入賞された生徒様にはどのような言葉をかけられましたか?

私は生徒に「音楽のテストは、結局“印象”で点数がつくものだよ」と伝えています。結果が良ければラッキー、そうでなければ単に審査員の好みに合わなかっただけ。それよりも大切なのは、(私の)「くにと流(国登先生流)」で、どれだけ音楽を愛しているか、ヴァイオリンが好きか、演奏曲を大切にしているかを、舞台の上で最大限アピールすることだと声を掛けさせていただきました。

結果に左右されず、自分の音楽を大切にし続ける姿勢を教える意味でもあり、生徒様にとってもありのままの自分で音楽と向き合える時間を与えてくれる存在だと感じます。評価よりも本質を見据えたご指導に生徒様もきっと長く音楽を大切にし続けていくのだと感じます。今回のコンクールで1番印象的だった思い出や出来事はありますか?

今回のコンクールに限らず、毎回印象的に感じるのは、楽器の演奏能力は結局「耳」が勝負だということです。耳が鍛えられている参加者は、耳から得た情報をもとに、音程や音楽表現だけでなく、理想的な動作や持ち方を自分の身体で自然に再現し、その曲を演奏していきます。どんなに音階練習や基礎練習、努力を重ねても、「耳」が鍛えられていなければ名演にはつながらない―そのように痛感しました。そして、それこそが「才能」と呼ばれるものなのかもしれない、とも考えさせられます。だからこそ、指導者としては、その演奏曲がどんな曲なのか、どんな演奏を目指すのか、どんな音を出してほしいのかを明確に伝えつつ、同時に「耳」を最大限に鍛えさせることが大切なのだと思います。

耳が才能という言葉が非常に印象的でした。聴く力を土台に、表現や技術まで引き出すご指導は生徒様の本質的な力を育てておられる証だと感じます。因みにレッスンの中では大切にされていることは何ですか?

私のレッスンでは、ただ「音楽が好きになる」だけでなく、「聴く人を音楽好きにできる奏者」を育てたいと考えています。生徒が演奏を通じて喜ばれる体験を重ねることで、自信を持ち、結果的に「もっと音楽が好きになる」ことにつながっていきます。また、生徒自身が「この音がいい!」と感じられるように、多くのお手本を示したり、わたしの指揮法を取り入れたりするなど、身体で音楽を体感できる指導を大切にしています。そうすることで、自然と大きな成長につながると考えています。

演奏技術だけでなく、音楽を通して心を育てることを大切にされ一人ひとりの感性を尊重し、音楽の楽しさという実感を育てながら自然に成長へと導き音楽の魅力を伝え続けていらっしゃる先生がとても輝かしいです。反対に生徒様の成長を通して、西谷先生が考えるいい音がブラッシュアップされることや、新たな発見などはございましたか?

私自身、生徒の成長を見守るなかで「音」への考え方も常に更新されています。例えば、指導の過程で生徒が思いがけない響きを生み出したり、自分では想像していなかった解釈を示したりする瞬間に出会うと、そのたびに新しい発見があり、自らの音楽や演奏方法も影響されていきます。生徒の音を通して、弾き方を研究したり、自分自身にも気づかされることが多く、結果として私の音楽観や指導法がブラッシュアップされているように感じます。生徒と共に歩む過程そのものが、音楽家としても指導者としても成長の糧になっているのかなと思います。

先生は理想の講師像のようなものはありますか?

私の理想の講師像は、「楽しく、優しく、緩く!でも、求めることはスパルタ!」というスタイルで、生徒がいつの間にか上達していた、と感じられるような、痛みの少ないレッスンを行う先生です。また、プロを目指すかどうかに関わらず、ヴァイオリンを通じてたくさんの演奏機会や様々な交流の場を提供し、生徒一人ひとりの人生経験を豊かにしていくことも、理想の講師像であり、同時に私自身の使命だと思っています。

最後に今回ご入賞された生徒様へ日頃なかなか直接言えないメッセージなどがあればお願いいたします。

審査員としては、舞台に立った瞬間から「どんな演奏者か」を判断しますし、一音でその人の実力を感じ取ることができます。けれど、その評価方法では、参加者が何年、何十年と積み重ねてきた努力や、夏休みを返上して必死に練習してきた時間を、本当の意味で理解することはできません。だからこそ、コンクールは「その日の、その瞬間の演奏」で比べられる場であり、決して将来性を測る物差しではありません。むしろ、課題曲を練習するためのモチベーションを生み出す場であり、さまざまな会場やホールで演奏できる経験の場であり、同世代の仲間たちの姿から学べる貴重な機会だと思います。生徒のみなさんには、コンクールに勝つことだけを目的にするのではなく、この場を人生を豊かにするための一歩として活用してほしいと願っています。そしてこれからも、音楽を心から楽しみながら成長していきましょう!また、私の教室では「音楽を好きになる」だけでなく、「人を音楽好きにさせられる奏者」を目指したレッスンを行っています。ご興味のある方はぜひウェブサイトをご覧ください!
👉 Kunito Int’l String School ヴァイオリン教室 https://nkunito.com/violinlesson/

インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。

プロフィール

©アーニーズスタジオ・井村重人様

西谷 国登
にしたにくにと, ヴァイオリン

ニューヨーク大学大学院修了(M.M. 特別奨学金受賞)、ポートランド州立大学卒業(B.M.、4年連続奨学金授与)。大学入学後、大学オーケストラの首席コンサートマスターを務め、2006年7月、2007年6月、2009年5月に米国各地でリサイタルを開催。卒業後は、ニューヨーク大学非常勤講師、ポートランド州立大学非常勤講師、ローズ市音楽学院講師、池袋コミュニティ・カレッジ講師を歴任。2010年に日本へ帰国し、2012年9月に帰国後初のリサイタルを開催。その後、2014年5月、2016年5月、2018年5月、2022年7月、2023年9月と、名門・浜離宮朝日ホールでリサイタルを連続して開催。これまでに、メンデルスゾーン、チャイコフスキー、グラズノフ、ブルッフ(スコットランド幻想曲を含む)、ラロのスペイン交響曲、ハチャトゥリアン、サン=サーンス、ブラームスなどのヴァイオリン協奏曲を、日米の主要オーケストラと共演している。2024年11月23日(土)には、浜離宮朝日ホールで3年連続となるコンチェルト・リサイタルを開催。これまでに(株)エス・ツウから6枚のCDアルバムをリリース。最近では、2023年9月に『サラサーテ』誌2023年10月号の表紙および巻頭特集「Artist Close-up」に選ばれ、その他多数のメディアにも取り上げられている。また、国内・海外のコンクールにて優秀指導者賞を多数受賞。情熱的で的確な後進の指導には常に順番待ちの人気があり、これまでに多くの入賞者を輩出している。これまでに、故田中千香士(元東京芸術大学名誉教授)、キャロル・シンデル(ヤッシャ・ハイフェッツの愛弟子)、マーティン・ビーバー(コルバーン音楽院教授)に師事。現在、ソリストとして日米各地でコンサートや公開レッスンを行っているほか、クニト Int’l ストリングスクール(KISS)教室主宰、石神井 Int’l オーケストラおよびクニト Int’l ユースオーケストラの音楽監督を務める。さらに、国内外の主要コンクール審査員、読売・日本テレビ文化センター(恵比寿)講師としても活動中。著書に『ヴァイオリン自由自在』(春秋社)、『国登ヴァイオリン教本 op.1-4(全4巻)』(サーベル社)などがある。
公式サイト: https://nkunito.com